推しがかえってきた。
2021年12月、推しグループが解散した。
2020年、新型コロナウイルスの影響で、ライブハウスでのライブを主に活動していたグループが次々に解散した。
グループどころか、聖地である渋谷のブエノスをはじめ、たくさんのライブハウスが長い歴史に幕を閉じ、悲しいニュースが毎日続いた。
2月から3月にかけて開催中だった全国を回るツアーも中止となり、やるせない気持ちだったものの、
推しグループが存続していることだけが唯一の心のよりどころだった。
異例の事態にきっと運営や演者側も手探り状態だったものの、オンラインの配信ライブや、テレビ電話の特典会など、
わたしたちファンを楽しませるコンテンツも用意してくれ、
目の前でライブを見る高揚感こそ感じられないものの、推しとゆっくり話せる楽しい時間を過ごしていたのも確かだった。
2020年という永くてつらい、先の見えない1年をのりきり、
2021年、スタンディングがメインのライブハウスでは珍しく、椅子を設置して間隔をあけることで「生」のライブが復活した。
ここまでくれば、問題ない。
あとは時間が経てばコロナ前の日常が戻り、ライブを重ねていけばファンも戻ってくる。
きっと、大丈夫だ。
根拠もなく、そんな風に思っていた。
なぜ、あの時、なんの根拠もなく、
「自分の推しは大丈夫」と思っていたのだろうか。
「わたしの推し活はこの先も続く」
なぜ、無条件にそう思っていたのだろうか。
なぜ、自分だけは大丈夫と思ってしまったのだろうか。
2021年11月、解散発表を受け、何度も後悔した。
悲しくて、現実を受け入れられなくて、
数日間は夢を見ているような気持ちだった。
社会人失格だが、出勤しても、なにをしてても、ぼーっとしてしまった。
たった2年半だったかもしれないけど、わたしの生活のほとんどが推しだった。
フォルダを見返せば、推しの写真や動画ばかりで、楽しかった思い出ばかりだ。
オタク同士のあれこれで嫌な思いをしたこともあるし、楽しいだけではなかったはずなのに、
思い出すのはキラキラした思い出だけ。
輝いていた毎日があっという間に真っ暗になってしまった。
楽しくライブを見られる気分ではないまま、ラストツアーのファイナル公演を迎え、
開演して、推しの姿が見えただけで涙が溢れたのを今でも覚えている。
ああ、本当に終わってしまうのか。
この歌の、このフレーズが好きだったな。
もう二度と生で聴くことはないのか。
1曲ずつ、思い出が終わっていく。
こんなに楽しくて元気の出る音楽に出会ったのは初めてだった。
推しは、わたしの青春だった。
出会ったときから最後まで輝いていた。
涙で視界がぼやけても、見逃したくない思いでなんとか見届けた。
終演後の特典会で一人一人に感謝を伝える推しを見て、
推しの決断を信じて、今後の活動も応援しようと誓った。
泣いている人たちもいて、せめて、わたしは笑って終わりにしようと思った。
ちゃんと笑顔で「ありがとう」を伝えられたかな?
2年半、たくさんの幸せをありがとう。
それから10ヶ月後、
2021年10月23日、再結成を発表した。
スマホを持っている手が震え、動悸がした。
路上ライブからのリスタート。
ドキドキして心臓が飛び出そうになりながら新幹線に乗った。
約10ヶ月、それなりに毎日楽しく過ごしてきたつもりだったけれど、
やっぱりこんなに高揚感を与えてくれるのは推ししかいない。
これからまた、楽しい毎日が始まるんだ。
次は後悔しないよう、一つ一つに感謝して、かみしめて、見逃さない。
推しの第二章、わたしも全力で追いかけたい。
(了)